なぜ天祖山へ登らないのか?
そういえば、A.W.クロスビー「史上最悪のインフルエンザ」(みすず書房)ずっと読んでないなあ・・・持っているのだから早く読むべきかもしれない。
単独で登山の対象となる奥多摩の山はほとんど登ったことになる。秋川筋では戸倉三山、浅間尾根、笹尾根くらいを行けばいいだろうし、奥多摩三山は多摩川流域からも秋川流域からも既に登った。するとあとは石尾根から雲取山という日原川南面の尾根筋と、川苔山から日向沢ノ峰を経て、酉谷山〜長沢山〜芋ノ木ドッケへ終わる、日原川北面の長沢背稜ということになる。
この山域でよく登られるのは、石尾根では鷹ノ巣山と七ツ石山からの雲取山(鴨沢ルート)であり、長沢背稜では川苔山(通常は長沢背稜には入れないが)であり、蕎麦粒山、仙元峠、三ツドッケ、酉谷山といった山々はあまり登られることがない。特に、長沢背稜から少し外れたところにある大平山、小川谷林道を延々と遡らなければならない酉谷山は、東京にありながら秘境的な存在になっている。このふたつの山については、すでに述べた。
天祖山は、「隠れた名山」ということになっている。この「隠れた」という意味は、unknownという意味だけでなく、hiddenという意味でもある。日原からこの山を望むことはできない。石尾根側から見ても一目でわかるピークではなく、長沢背稜側からみてある特徴のためにようやくわかる程度である。
中央線(総武線)の始発に乗ると、奥多摩駅7:25発の東日原行きのバスに乗ることができる。新緑の時期、GWにはこのバスは満員となり、増発便が出ることすらある(こんかいは出た)。その大半はザックを抱えた中高年者で、これらのひとびとは半分以上が川乗橋で降りる。川乗橋からはバリエーションルートである鳥屋戸尾根を伝って蕎麦粒山に直接登れるルートもあるが、おそらく大半のひとは川乗谷経由で川苔山へ向かうのであろう。残りは終点の東日原で降りるのだが、おなじく大半は稲村岩尾根経由で鷹ノ巣山へ登ってしまう。しかし、東日原は三ツドッケ(ヨコスズ尾根)、酉谷山(小川谷林道)、そして天祖山・雲取山(日原林道)への登山基地でもあるのである。
天祖山、標高も鷹ノ巣山と変わらない。にもかかわらず敬遠されている理由は、1)アプローチに林道を1時間歩く 2)長沢背稜に抜けると時間がかかり、通常はピストンとなる ということだろうか。特にピストン登山となると、林道歩きが合計二時間となるからそれが嫌がられている理由なのだろうか。もったいない話である。しかし、そのおかげでこの山の静けさと自然が保たれているとしたら、それは天祖山にとっては幸運なことなのかもしれない。
登山口に着いたのが8:45頃である。一組のカップルが同じように東日原から日原林道に入り、孫惣谷(まごそだにと読むようだ)林道との分岐点、八丁橋で天祖山の登山道には入らず、そのまま日原林道を西へ入っていった。こちらは筆者が先日通った唐沢谷林道や大ダワ林道へ通ずる道である。つまり、彼らは雲取山へ登っていったことになる。
出だしはかなり人工的な感じの道である。つまり水源林巡視のためにあとから付けられた道であろう。しかし天祖山は奥多摩きっての信仰の山であり、むかしからの登山道があるはずである。しかしこの道、人工的に付けられたにしてはわるくない。というのは、この山は植林がほとんどないのだ。ブナを中心とした雑木林の中を、地形図通りかなりの急登で高度をたちまちかせぐ。尾根に乗るとロボット雨量計があり、おそらく昔からの道と思われる自然なかんじの登山道となる。なにせ、植林は高度をもう少し上げたところでヒノキがちょっとだけ現れるだけで、昔ながらの奥多摩の自然林の雰囲気が豊富に残されている。
1時間ほどで大日神社へ着く。作業のひとたちがつかっているような小屋である。この山で面白いのは、神域になるとそこだけ杉が植えてあることで、樹齢から見てわりと近年の植林だと思われるのだが、好ましい雰囲気である。ここにはあと2.6kmという表示があるが、ほぼ1時間程度で山頂に着くことができる。山頂には天祖神社が厳かに鎮座している。展望はない。

ここで昼食を食べようとするが、忘れたことに気付く。ひもじい。非常食を食べて凌ぐことにする。
ここからは梯子坂のクビレと呼ばれる、旧裏参道との分岐点まで、北上しつつひたすら下ることになる。手前にこれから辿ってゆく長沢背稜が望見できる。ここまではかなり急な下りだが、梯子坂のクビレからあとは、長沢背稜的な平坦な道となり、それほどきつい登りではない。ここまでに一人の登山者を追い越しただけで、誰にも会わない。静かな山であるが、なぜか山頂が騒がしい。その理由はのちほどわかることになる。
長沢背稜では二人の登山者に会う。ひとりは男性で、出会った時間から考えて、おそらく雲取山で一泊するのであろう。もうひとりは四十前後の女性の単独行であったが、なんとトレイルランニングをしていたのである。ということは、そのまま雲取まで走り、その日のうちに下山するのであろう。恐れ入った。
滝谷ノ峰と呼ばれる(タワ尾根ノ頭とも呼ばれているようである)タワ尾根への分岐路、タワ尾根を示す目印は、ない。しかし、左雲取山、右酉谷山を示す木の立派な案内板があるので、すぐ気づくだろう。おおらかな感じがするタワ尾根へ入ってゆく。ここから先はやや道が不明瞭であり、できれば地図とコンパスの携行を勧める。ほぼ天祖山の尾根と平行に走っているし、迷うところはないようにも思われるが、一部不明瞭な箇所があり、自信を持ってルートを選択するためにはそれらが必要だ。
タワ尾根は天祖山の尾根と同じで自然林が豊富で魅力的な尾根である。しばらく進むと、何とモノレールが。モノレール沿いの老木が切られてしまっているのを見ると、心が痛む。利用価値はなさげなのに、どうして伐採するのだろうか。幸いにしてモノレールはまもなく右の枝尾根へ消える。しかしそのあたりがもっとも迷う場所である。ウトウの頭と呼ばれるピークを過ぎると、よほど道は明瞭となる。この山頂にはウトウ(善知鳥)の絵標識があるはずだったが、みあたらなかった。誰かが撤去したのだろうか。展望はやはりよくないが、ときどき木々のあいだに天祖山の無惨な姿がみえる。そう、天祖山は奥武蔵の名山、武甲山と同じく、全山石灰岩でできており、採掘の対象になってしまっているのである。つまり、山頂のあの騒がしさは発破の騒がしさなのであった。

ここから先は山頂の標識がいくつもある篶坂ノ丸を過ぎると突然道は明瞭となる。標高1007mの一ツ石山までは意外と早く着くが、ここからあとが大変だった。なんせ日原鍾乳洞まで500mくらいの標高差を一気に降りるのである。つまり、タワ尾根は最初に急登があり、そこからは緩やかな登りとなっているのだ。この尾根を登る/下る方は、事前に地形図を見てイメージを作っておくのがよいだろう。
結局、14:50の奥多摩行きのバスには間に合わず、前回と同じように日原林道の入り口(日原鍾乳洞バス停の折り返し点)からタクシーを呼び、同じく天祖山へ登ったというおじさんをナンパして、タクシー代を節約しつつ、登山談義で車中を過ごしたのだった。
最近の読了
マイケル・オーシェイ「一冊でわかる 脳」岩波書店 B
まあ、こんなものだろう。これくらいは知っておきたい。





