奥秩父らしさとは(1)
奥秩父という山域のいちばんの魅力は、首都圏に居住している者からすると、アクセスのよさであろう。しかも、奥多摩や丹沢にない魅力として、この山域の開拓者である田部重治氏や小暮理太郎氏が説いたように(そういえば、木暮氏の「皇海山紀行」は名文だったから、奥秩父についての文章も読んでみよう・・・「山の憶い出」入手しました。平凡社ライブラリ)「森林や渓谷の美」があるのなら、いまなおそれらが保存されているところを狙って登るのがいいだろう。
後者に関しては、笛吹川上流の東沢に止めを差すと言われている。いずれ行かねばなるまい。では、奥秩父でも今なお原生林がよく保存されているところはどこなのか。筆者が知っているのは、雲取山北面の芋ノ木ドッケのあたり、野陣尾根(富田新道)上部、長沢背綾の天祖山分岐〜三峰山縦走路分岐、飛竜山山頂付近、小川山、そして国師ヶ岳などであった。こんかい、意外にも甲武信岳の木賊山分岐あたりから東側にも豊かな自然林が残されていることを知った。
以前より登らねばと思っていた鶏冠山で行ってきた。柳沢峠近くの(黒川)鶏冠山(けいかんさん)ではなく、甲武信岳に連なる尾根上の鶏冠尾根にある鶏冠山(とさかやま)のほうである。筆者は1985年発行の山と渓谷社「アルペンガイド」を持っているが、これによれば「荒れているから入らないほうがよい」と書いてある。登山ルートとしてはかなり前からあったらしい。さいきん、鶏冠山が山梨百名山に選ばれてから登山ルートが整備されるようになったようだ。
ガイドには「季節にもよるが登山口まで数回の徒渉が必要」とあるが、西沢渓谷の東沢にかかる二俣の吊橋を渡った場所から「鶏冠山」と標識のついた道が分岐していて、東沢を高巻きするようにルートがつけられている。なので、徒渉は鶏冠沢に入る直前に東沢を渡る一度のみで済む。
徒渉のあとは、地形図でみるようにひたすら尾根を直登することになる。できればこの日のうちに雁坂峠くらいまで行こうと思っていたのでひたすら飛ばす。いいかげんあがると、1500m付近で傾斜が緩み、方向を西に変えると前方になにやら岩綾がみえてくる。これが鶏冠尾根だ。
岩綾に近づくとその尾根は直登せず、ひたすら左手に巻いて行く道となる。テープ完備で迷うことはないと思われる。尾根の傾斜が緩く岩綾がない部分を探りながらの登高ということだろう。台風の影響だろうか、かなり崩れているルンゼを横切るところなどもある。ふたたび尾根に乗ると、だんだん尾根は細くなってゆき、ついに鎖付きの露岩に出る。第一岩綾である。手がかり、足がかりは豊富で鎖は不要である。登った上は展望台になっている。
ここからは展望はよくなり、国師ヶ岳方面、おそらく石楠花新道や黒金山と思われる山稜がよく望見できる。振り返る毎に広瀬湖がだんだん小さくなってゆく。第二岩綾は第一岩綾よりはやや手ごわいが、四点支持の基本を守ってさえいれば特に鎖を使わず登れよう。最後に巨大な岩盤が立ちふさがるのだが、「第三岩綾 巻き道はこちら」という看板がある。巻き道云々とある上は直登もできるのだろうと思って岩に足をかけてみるが、少々飛ばして疲れていたのと、鎖のバックアップがないこと、荷が重いことなどいろいろな条件を考え、ここは素直に撤退することとした。巻き道を上がり、「木賊山<-->広瀬」と書いてある看板を南へ引き返すと、そこが山梨百名山の標柱のあるピークであった。ここまで3時間半。予想以上に時間を消費している。
実はここから木賊山までの稜線がきつかった。踏み跡は稜線上では明瞭なのだが、稜線を外すととたんに不明瞭になり、トレースが追い難いところがある。また踏み跡は明瞭でもシャクナゲが被ってザックにひっかかる。ここは飛ばせる道ではない。ほぼ一直線にみえるが、2177mピークの一つ先のピーク、ここは天候が悪いとほぼ真北に向かって伸びている尾根に乗れない可能性があり、要注意だ。ちなみに鶏冠山の本当の山頂は2115mピークで、山梨百名山標柱のところではない。鶏冠尾根を登ってゆくと山頂標識に出会うことになる。
ここでも思ったより時間を喰って(2115mピークからの登りではないから当然だ)待望の木賊山に着いたのがもう15時近くになってしまった。どうするか。
ここでルートをよく調べていなかった弊害が出た。この時間から雁坂峠まで抜けることは不可能だと思ったので(これは正しい)、甲武信小屋に泊まるしかないと思い込んでしまったのだ(これは誤り)。ここから破風山方向へ向かっていくと、2141m小ピークから少し下った1990m鞍部は笹平とよばれており、埼玉県が設置した避難小屋がここにある。水場も20分山梨県側に下ればあるので、ここに泊まればよかったのだ。
そうとも知らず甲武信小屋にテント泊したその夜は悲惨であった。当然氷点下で冬季用のシュラフを持参すべきところ、夏季用を持ってきてしまったため、ほとんど寒さで一睡もできなかった。久しぶりにいい経験をした(笑)