朝日新聞によると、過去最大の医療費の引き下げが行われるそうだ。
まーいいけど。
この問題にかんするわたくしの意見は繰り返しになるが以下の通りである。
まず、C/P比をみたばあい、日本の医療はまちがいなく世界一(これは筆者の意見ではなく、WHOもそのような算定をしている)。その理由は国民の負担額がすくないからだ。この世界的にみて少ない(というより、ある医療の水準を実現するために必要である、と世界の水準がみとめるコストより少ない)医療費をさらに削減することは何を意味するのか。病院としてはさまざまな対策が考えられるが、
A)収入増・・出来高制が認められているうちはよりたくさんの検査を行い、入院日数を増やす(土日の退院を減らす)。差額ベッド代を上げる。人間ドッグやワクチン接種など予防医学で稼ぐ。
B)支出削減・・ジェネリック医薬品の採用、儲からない患者の排除(長期入院など)、人件費の削減
思いつくままに挙げてみたので、実際にはもっとさまざまの策が取られるだろうが、もんだいなのは最後の一項である。例えば、「医師の収入が高すぎる」という議論は前からあるのだが、これを削減することが日本の医療にとって致命的な結果になることはほとんど認識されていない。
現在の日本で、一世帯の平均年収は700万円と言われている。上位50%くらいの平均を取った場合、正確にはわからないが、1000万円を下回ることはないであろう。
開業医離れが進行しているいま、日本の医療の大部分を担うのは勤務医になりつつあるが、彼らの平均年収は1200万円と言われている。これは高すぎるのだろうか。
医師が収入を得るようになるためには、まず医学部を卒業する必要があるが、これには六年間、つまりふつうの大学生よりも二年余計にかかる。かつ、昨今はいわゆる論文博士を認めないような方向にすすんでいるために、医学博士を取得するためにはさらに四年間の大学院課程が必要になる。
また、さいきんでは二年間の研修期間に収入が保証されるようになったとはいえ、この間の収入は月20-30万である。通常の大卒のサラリーマンとそう変わらない。さらに、最近は二年間の研修が終了したのちに、さらに専門的な研修をする医師が増えているが、その際の身分は非常勤医であり、年収は病院にもよるだろうが、アルバイトをしない場合は5,600万くらいだと思われる。
以上の事実から、勤務医で一生を終えるとした場合の生涯賃金を計算してみよう。博士号は取るが留学はしないと仮定しよう。また大学の医局には所属はしているが、大学で勤務することはないとしておこう(これはあまり一般的でない仮定である)。
24歳で卒業
26歳で初期研修終了
30歳で専門研修終了
34歳で大学院卒、博士号取得
60歳定年
360 x 2 + 600 x 4 + 1200 x 26 =34,320
かりに大卒サラリーマンの生涯平均年収が1000万だとすれば
1000 x 38 = 38,000
となる。大卒サラリーマンの平均年収1000円というのは、少々高すぎるかもしれないが。
700万で計算しても、700 x 38 = 26,600 となる。医師免許を取得するのに必要なコストと労力、医事紛争に巻き込まれるリスクや夜間・休日の呼び出しといったデメリットを考えると、8000万(38年で割ると年間200万)の収入は、わたくしには妥当とは思われない。これは税込みの金額であり、この200万にさらに税金が累進でかかるのだから、手取りにすると140万円くらいになるだろうか。むしろ、裁判なし、夜間・休日の呼び出しなしという条件なら、手取り140万の収入はなくなってもよい、と考える医師が大部分だろう。
この収入から、さらに減ることが予想されるとしたら、やる気と実力を兼ね備えた優秀な人材は、もう医療の分野には参入してこない、とみるのが妥当だろう。つまり、現在の教師のような運命を医師もたどると見てよい。もし、現在の学校をめぐる諸問題に対しても国民が納得しているのだとすれば、今後医療の給付の水準が低下しても裁判に訴えるなどの方策を禁止することが衡平だろう。それならば、収入が減少しても医療業界は歓迎するだろうと思われる。