読者はウェブ出版や電子書籍を購入されたことがあるだろうか。筆者はない。他人のブログを読まないのは、内容のこともあるが、液晶画面に表示された文字を読むのが好きではないという事実のほうがおおきい。電子ブックにしても、モノクロの液晶画面はやはり見にくいし、活字のアナログ感に比べて液晶のデジタル文字は、フォントの個性も文字自体の鮮明さも本に劣ると思う。やはり白い背景にくっきりとした黒い活字、という組み合わせは、眼の疲れやすさからいっても遥かに液晶に勝るのではないかと思われる。
筆者は、本の装丁は内容の理解度に反映してくると考えている。つまり、まったく同一の内容であっても、文庫本とハードカバーの背表紙本では、頭の入り方がちがってくるのではないか。これにはいろいろな理由が考えられる。読む側の精神の問題(ハードカバーだと気合いが入る、とか)、ハードカバーは重くて持ち歩くのがたいへんなので、自宅でしか読まない、とか、値段がたかいのであまり買わず、買ったものはきちんと読もうという動機がある、とか、さらに活字や段組みの違いからくる読みやすさ、など、さまざまな原因がそこには関係していそうだ。
というのは、筆者の場合、やはりあまりよい印象をもたなかった本には、文庫で安いつくりのものが多かったりするということがあり、その傾向には前から気付いていた。前からよいイメージを持てなかったのは新潮文庫だが、ソルジェニーツィンの一連の文庫本を入手して驚いたのは、この時代(昭和末期)くらいから以前とちがう活字を用い出したため、非常に鮮明に文字が読めることである。また新潮文庫は本のページ数に比べて本の厚みがない、つまりあまりよい紙質を採用していなかったわけであるが、これらの本は意外に経年劣化(ヤケ)がすくない。というか、きっと新潮のほかの本から比較するとかなりよいために、過大評価をしてしまっているのかもしれない。
さいきん、かなりハードな値段付けをする文庫がおおい。具体的には平凡社ライブラリー、ちくま学芸文庫(ちくま文庫も高め)、講談社文芸文庫、そして岩波現代文庫の四つである。講談社学術文庫もここに入れてよいかもしれないが、昔から追っているとそれほど高くはない。
平凡社のものは紙質も装丁も丁寧だ。活字は比較的大きく、ゆったりと組んであるためによみやすい。内容も含めて気に入っている文庫だ。ちくまはかなり組みかたが詰めてある。活字自体はそれほど小さくないために、文字間が接近している。紙質はそれほどよくない。講談社文芸文庫は、これらの中で紙質が最も劣る。十年程度でヤケが発生するようだ。おまけに旧かな・旧漢字を採用していないため、一部の作品では文学的香りがかなり損なわれている。「文芸」を謳っているのに、これはないだろう。最後は岩波だが、最もC/Pがわるいだけあって、活字の質も紙質も最もよい。おそらく中性紙を使っているのではないか。まだ歴史が新しいだけあって経年劣化についてはわからないが、二十年くらいは大丈夫そうな印象を受ける。あの岩波のペダンティックな独特の活字(これについては好き嫌いが分かれると思われるが、筆者は好きである)が堪能できる。
筆者がよく購入する出版社としてみすずがあるが、古いものは活字がかすれ気味であまりよろしくない。さいきんの本で素晴らしいと思ったのは、ネグリ/ハートの「帝国」(以文社)だ。ここの出版社の本は装丁もしっかりしていて、活字は極めて鮮明度がたかく、読みやすい。もちろん、内容も定評ある本だが、この物質的魅力には抗し難いというのも、筆者の好感のひとつの理由だったりする。