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両神山(1)

 に、登頂するつもりだった。が、挫折した。なぜなら・・・

 深田久弥の「日本百名山」の中に、埼玉県は三つの山を輩出している。雲取山、甲武信岳という奥秩父連峰のふたつと、この両神山である。そして、雲取山は東京都との県境にあり、東京都から唯一百名山に選出されている山であり、埼玉固有の山とはいいがたいであろう(2ちゃんねるには、「雲取山は古来より埼玉県固有の領土であり云々」という書き込みがあり、失笑してしまう。しかし、たぶん歴史的にはその論者が正しい。なぜなら「三峰山」の三峰とは、妙法ヶ岳、白岩山、そして雲取山の三山を指し、その三つを祀る三峰神社は秩父側にあるからである)。そして、いうまでもなく甲武信とは、甲州、武州、信州の県境にあり、これも「埼玉固有の山」とはいいがたい。その点、両神山は埼玉固有の領土であり(笑)、名実ともに「埼玉を代表する山」と言えるであろう。

 この山へ登るルートは複数ある。そのうち、一般ルートと言えるものは、秩父側から日向大谷口から登る表参道、白井差口から登る(一時このルートは閉鎖されていたが、現在管理者に事前連絡をして管理料を払うことで通行可能である)ルートの二つである。筆者が中学生のときに父親に連れられてきたのは、たしか白井差から登り、日向大谷へ降りるルートだと記憶している。ので、今回は八丁峠からの岩場ルートで山頂を目指す・・・はずだった。

 八丁峠はここである。そして、ここから西方向へ向かって尾根が伸びている(岩場マークがたくさんついている)。この尾根を西へ辿ると、赤岩峠に達する。当初の予定では、ここから八丁峠を経て、両神山へアプローチするはずだった。

 自宅より池袋までタクシーで向かう。5:00発の西武池袋線に乗ると、西武秩父で乗り換えて7:40頃に秩父鉄道の三峰口駅に到達できる。ここからタクシーへ乗って、約1時間、9,200円ほどを払って赤岩峠より南の赤岩橋集落で降りる。

 ここは日窒の鉱山があったところで、タクシーの運転手さんの話によると、金や鉄鉱石を産出し、全盛期は2,000人ほどが働いていたということである。現在はこの集落はほぼ廃村にちかい。ただ、ここから少し南に下るとまだ石灰を掘っており、郵便局だけは稼働しているようだ。この橋を渡り、集落に入りここを北に抜けるところを標識がある。「ここから赤岩峠を経て大ナゲシや赤岩岳に向かうルートは・・・事故多発しており・・・ザイル装備が必要な熟練者向きルートである・・・」という例の標識である。ただ、ネット情報によれば(そんな怪しげなものを信用していいのかという問題もあるが)「ザイルなしでも可能なルート」らしいので、いちおう無視して進む。

 1時間ほどで赤岩峠に着く。ここから、まっすぐ赤岩岳に登るつもりだったが、ガスっていて視界が閉ざされていた峠の北西に、突如として奇妙なかたちの岩峰が目に入った。標高1,532mの、地形図では名前は記されていないが、これが大ナゲシである。「あそこへ登ってから八丁峠を目指そう。時間切れになったら両神山は断念し、八丁峠から下山しよう」そう決定した。

 八丁峠から西へ向かう。途中で、このようなテープがあった。

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 この矢印は、このテープの後方、右へ回ってゆくルートを示しているのだが(ふつう正規のルートだとおもうだろう)、実はこのテープの手前に右へ降りてゆく踏み跡がある。筆者はこのテープはその踏み跡を意味しているのかと思い、そちらへ降りていったが、最終的には大ナゲシへ至るものの、ちょっとした体力と時間のロスになった。

 しばらくして、左の正規ルートと合流し、ちょっと進むと問題の岩場に到達。ここでリュックを降ろす。

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 あのー、この垂直の壁、登るんでしょうか?

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 こちらは左側のルートで、写真よりも実際には高度感がある。意を決して正面から登ることとした。写真のようにロープが(鎖ではない)垂らしてあるが、このロープは使わなくとも、慎重に足がかりとホールドを探してゆけば、それほどの危険はない。しかし通常の山登りに比べればスリリングだ。

 しかしこの登りはすぐに終わり、次の山頂直下の岩場はここまでの緊張感はなく登れる。

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 そして程なく山頂。黄色いテープで、石に「大ナ」と貼ってある。「ゲシ」は取れてしまったらしい。

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 ツツジも咲いている。

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 周りはガスのため、見えない。

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 ここから先ほどの岩場を下ってゆくが、これも特にロープを利用せずとも降りられる。結論として、大ナゲシはかろうじて一般ルートと言えそうだ。「ザイル必要」はさすがに大げさだろう。

 ここから赤岩峠に戻る間に、大ナゲシがわずかに展望できた。このように特異な岩峰が屹立しているという印象である。

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 さて、赤岩峠に戻って、改めて赤岩岳をみるに、とんでもない山である。印象は大ナゲシの数倍危険度がたかそうだ。この写真ではちょっとわかりにくいが、正面にあるのはほぼ垂直に近い大絶壁だ。こんなところ、登れないよ・・・

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 で、登ってみると、その絶壁はエスケープして、巻いてから登るルートがあった。少々岩が多いものの、登れないルートではない。頂上に着いたときは、これくらいなら大丈夫、と思ったのだが。

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 ここから1589mの蓬莱山への分岐まで、このような垂直に近い絶壁が連続するのだ。そして、そのほとんどが絶壁の直登! である。エスケープはない。こんな場所、登れないって・・・

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 いちおうロープはあるものの、なるべくロープに頼らないようにして、三点支持を忠実に心がける。いちおう、登れないこともない。しかし、万一足を滑らせたりしたら、命はない。やっとの思いでピークに到着すると、次はこれである。

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 筆者の記憶では、合計四回(五回だったかも・・・)このような危険な岩場を通過したと思う。でも、ザイルは必要なかった。1589ピークから下りるところ、ここだけは唯一備え付けて逢ったロープを利用した。ここは自力だけでは負傷した可能性が高いと思った。

 で、八丁峠に三時間後に到着。さすがに、ここからさらに両神山まで二時間、さらに日向大谷へ三時間のみちのりを歩く元気はなかった。ここにはこんな標識が。

SDIM0149.jpg

 これを見たときは、「そんなこと言われても、もう来ちゃったよ」と思ったのだが、あとで冷静に考えれば、埼玉県のこの看板は正しかった。というのは、

「この赤岩尾根で、岩場はすべてピークの西側にしかなかった」

 のだ。つまり、赤岩峠から登れば、岩場はすべて登りで、八丁峠からでは下りになる。そして、言うまでもなく、岩場では下りは登りの数倍危険である。

 たしかに、筆者はザイルなしでこの尾根を無事通過した。しかし、「ザイルなしで通行可能な、一般ルートの最難関」と考えることは、危険だと思う。やっぱり、

「ザイルなしに入山してはならない」

 という峠の登り口にあった看板が、大ナゲシはともかく、赤岩尾根に関しては正しいのだ。なぜか。それは、

「いつまでもあると思うな補助ロープ」

 ということだ。誰かがいたずらで切断するかもしれないし、体重100キロオーバーの人間が全体重をかけてロープをだめにしてしまうかもしれない。それどころか筆者がみるかぎり、筆者の体重でも万が一滑落したら、耐えられそうにないものもあった。また、悪天候で引き返す必要が生じたとしよう。この尾根にはエスケープがない。ということは、あの危険な岩場をバックする必要が生じることも考えられる。さらに、さいわい筆者は天候に恵まれたが(降雨があったのは八丁峠から坂本へ向かう途中だった)雨が降り岩場が濡れれば、滑落の危険性は倍増する。そういった万が一(というには、高すぎる可能性のある)の不測の(いや、予想できる)事態に備えて、安全下降のためのザイルは持っておいてよい。というか、必要だ。

 ザイルなしでこの尾根を通過してみて、筆者はあらためてザイル装備の必要性を感じたのであった。「ザイルはロッククライミングの必需品というのではなくて、安全登山のための道具である」という言葉は、真実であると思った。

 最低限、懸垂下降ができるくらいの知識は持っておいた方がいいだろう、このような山域に臨むのであれば。


 さて、八丁峠からは坂本へ下りるのだが、途中、林道と出会うところからのルートがわかりにくい。あとから思えば地図を確認すれば容易にわかるのだが、雨が降っていたこともあって、筆者はそのまま林道を下り、志賀坂トンネルの入口、林道の終点でタクシーを呼んだ(こんなところでも携帯が通じる!)。そこからさらに四キロ歩いたところでタクシーに遭遇。そこから西武秩父まで9,440円の出費であった。げに、登山とはカネがかかるスポーツなり(ゴルフ並みである)。


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2008年05月03日 20:13に投稿されたエントリーのページです。

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