だらだらと読んでしまったけれども、是非二冊とも一気読みをお勧めしたい。
最近の読了
臼杵陽「イスラエル」岩波新書 B
アレンド・レイプハルト「民主主義対民主主義」勁草書房 A
いずれも好著。是非読んでみたい。
「イスラエル」一気に読める本だけに、詳しく内容紹介をする必要はないと思うが、「なぜ中東平和が進まないのか?」という問いに対して、イスラエル側に存在する事情をもっともわかりやすく、説得力を持って呈示した本ではないだろうか。
ひとことでいうと、イスラエルの政治環境は「どうしようもない」のである。国内でコンセンサスが得られる可能性が考えられないから、パレスチナのひとびと(パレスチナ人とは呼ばないでおこう)との対話・平和共存など不可能なのである。そこで国家統合のための最大公約数として「シオニズム」という思想が登場する、というからくりのようだ。もっとも、そのシオニズムは、「大きな物語」ではもはやなくなっている、という鋭い指摘も述べられている。
筆者にとってあらためて注意を喚起されたことは以下の二点である。ひとつは、建国時に発生した第1次中東戦争に関して、「アラブ列強に囲まれた弱小イスラエル」というイメージが流布されているが、それはまったくの誤りであったこと。軍事バランスは兵力的にも兵器的にもイスラエル軍の圧倒的優位であって(何せアラブ側には空軍がなかった)、勝利は最初から予想されていたことであり、休戦中にチェコから大量の兵器を仕入れたことは、それを補完する意味合いしかなかったこと。もうひとつは、ホロコースト(ポグロム)の、イスラエルにおける意義。右派ほどホロコーストの意義を強調する、という単純な図式ではないことがよく理解できる。
さらに、日本人がよく持つ誤解として、労働党は左派、リクード党は右派であり、前者が政権を取らない限り和平は期待できない、というものがあると思うが、労働党は決してハト派ではないようなのだ。そもそも初代首相のベングリオンは労働党党首であったが、決して彼をハト派と考えることはないのではないか。労働党とリクード党は、シオニズムを異なるかたちで表出しているに過ぎない、そう取ることもできる。
ともあれ、中東情勢のみならず、国際関係に関心を持つかたにとっては必読書と言えるだろう。
後者も、勁草書房の他のシリーズと並んで、一読の価値ある好著。というか、シリーズ内では本書の価値が最もたかいのではないか。「政権交代論」が全くの誤解であることを統計学的な裏付けを元に立証した学術論文である。民主主義を「ウェストミンスター型」と「コンセンサス型」とに分け、前者が民主主義の基本形であり、より望ましいかたちであるという「常識」が誤りであることを、さまざまなパラメーターを考慮に入れて、反論の余地がないかたちで分析している。
本書の、日本人にとっての最大の価値は、日本政治が国際的にみてどんな「偏向」を持っているのかが一目瞭然となるところである。例えば、違憲審査を専門に行う憲法裁判所を持っていないことは、硬性憲法でコンセンサス型の政治を取る国としては異例であることや、中央銀行の独立性の低さ、GDP比からみた福祉への予算配分の過小さなども標準から外れていることが理解できる。そういった、コンセンサス型民主主義形態を取る国の水準からずれている項目に関しては、再検討が必要なのではないかと思われる。
本書を読んですぐに理解できることは、民主党への政権交代論/二大政党制がよい結果を生まないであろうこと、である。その文化の均質性にもかかわらず(もちろん日本にも少数民族は存在するし、その権利を尊重すべきことはいうまでもないが)野党との話し合いによるコンセンサス型の意思決定がなされてきたことは、日本の政治的風土にマッチしていたからだ、という説は説得力があるように思われるし(著者がそう書いているわけではない)、民主党に政権が交代することがあったとしても、従来通り社民党や国民新党との連立政権を組み、自民党とも話し合いで決定するようなかたちになれば、大きな問題はないのかもしれないが。
最後に、本書の分析中、日本を地方分権型国家に分類しているのは誤りではないだろうか。日本において地方自治体が独自色を出した行政を行っているとはとても言えないだろうし、ひも付きの補助金の獲得に汲々としている状況のなかで、国から委任された業務がかなりのウェイトを占めていることは、周知の事実だからである。
二冊とも筆者にとってはひさびさのヒットであった。強く一読をお勧めする。