中央本線、下りの小淵沢行き最終電車に乗り込み、日野春駅で下車をする。誰も降りないと思っていたが、地元のひとらしき数人以外に、意外にも三人の登山客らしき姿がある。
そのうちの二人連れの若い男性と話をする。筆者と同じように夜間登山を考えているということ。筆者はタクシーを日野春駅に予約していたが、彼らは駅から登山口まで歩く予定だったとのこと。結局、登山口にある神社に宿泊予定の、もうひとりの男性を含めて、四人でタクシーに相乗りすることとなった。
着いたのは竹宇駒ヶ岳神社。そう、目指す先は南アの名山、甲斐駒ヶ岳である。駒ヶ岳神社を朝の1:06に出発する。二人組の彼らは、登頂した後、西側の北沢峠に下山する予定だという。例によってトレランスタイルでどんどん登ってゆく。
筆者は登山に関しては原理主義的な部分を持っている。その原則の中に、複数の登頂ルートがある場合、可能な限りクラシックルートを使うこと、というのがある。甲斐駒のメインルートは、今では海抜2030mにある北沢峠からのものである。しかし、甲斐駒といえば、日本三大急登の一といわれる黒戸尾根を外して登ることはできない。標高760mからの2200mの標高差をこなしてこそ、甲斐駒の大きさに触れることができるのだ。
甲斐駒はトレランにも夜間登山にも適した山である。ひとつは、特に登りの場合、ルートを外す可能性がほとんどないことである。筆者はヘッドランプと電灯の併用だったが、ヘッドランプだけで行けるであろう。もうひとつは、標高2270mの七丈小屋までは、ハシゴと鎖の箇所を除いて、走れる道であることである。上部の岩稜部を除いては、基本的に土の尾根なのだ。岩が露出している部分も少なく、よく整備されている。
最初のポイントは、もうひとつの登山口である横手駒ヶ岳神社からの登山道との合流点である。ここまで二時間半の行程と登山地図に書いてあるが、着いたのは1:59。なかなか快調な出だしである。
夜間なので、見通しは当然、利かない。ときどき街の灯や、こちらの場所よりも高いところにある建物群が妖しく映っていた。おそらく、季節柄住人が多くなる、八ヶ岳山麓の別荘群であろう。しばらく登ると明るい尾根に出て、眼下に韮崎市街が観察できたが、あまりの暗さにデジカメにNGをいわれてしまい、撮影は断念。
3:03刀利天狗到着。これは下山時の写真。ここまでの尾根が「刃渡り」と呼ばれる痩せ尾根だそうだが、夜間でも特に不安はない。

ここから右のハシゴを登る。このへんからハシゴや鎖が散発するが、気になるほどではない。しばらくすると道が急に平坦になり、それが延々と続く。こんなに平坦になるのは黒戸山の山頂を巻くルート以外にはないはずだから(行きの時点では、刀利天狗がどこか、筆者は把握していなかった)、ここで全行程の半分まで来たことを確信した。予想通り、もう少し経って、五合目小屋跡地まで到着。3:40。
ここからは一部の区間、ハシゴの連続となる。しかし基本的にはまだ土尾根で、走ろうとおもえば走れない道ではない。しばらく急登と平坦とを交互に繰り返し、七丈小屋へ到着。4:14。夜が白みかける。テン場にはさすが百名山、色とりどりのテントが全部で20張りくらいはあっただろうか。ここを超えると完全にヘッドランブは必要がなくなったが、小屋またはテント泊の登山者が大量に出現してきた。
ここから先は意外に距離感がある。約2370mの七丈小屋からは残り600mを稼げばいいだけなのだが、地図でみるより遠い、遠い登りである。八合目御来迎場4:50。かなりペースが落ちている。この付近から帰りに山頂を撮影。

このあたりは手足を使った鉄砲登りあり、岩稜帯でとてもランニングはむりである。ただ、この八合目を超えると傾斜は若干緩み、歩きやすくなる。5:37山頂着。そこにあったのは・・・

筆者はいいたい。この奉納物を理解できるのは、ただ正規ルート=黒戸尾根を登りきった人間だけだと。
下りにかかる。途中で、女子大生らしき、女性四人だけのパーティに出会う。山女(?)らしからぬ、美人揃いで少々びっくり。しかも黒戸尾根ルートである。軽装にみえたので、おそらく七丈小屋泊まりであったと推測されるが、あんな美女と同宿できるなら、小屋も天国かもしれない(!?)。
帰りは疲労とソールの能力の問題で、ゆっくり歩行、コースタイムとさほど違わないタイムで(朝飯を食べつつゆっくり降りたのが原因だが)、9:54下山。昭文社エアリアのタイム、15時間15分と比べると、9時間を切ったタイムだから、かなり頑張ったつもりだが、トレランランナーのなかには、2時間台で登りきる強者もいるようで(ホントに人間なんだろうか??)、恐れ入るばかりである。しかし、途中で若者二人組に再開して、「四時間半で登りました」と言ったらびっくりされたので、まだまだ捨てたものではない!?
筆者、まだまだ体脂肪が多すぎるのだ。もっと絞らねば。また、今回の山行で、手を数回突いてしまい(その半分くらいは靴のせいだ)、右手尺側の痛みが取れない。症状からすると、TFCC損傷のようで、しばらくは手首の安静を保つ必要があるようだ。タイプしていても、痛いよ・・・
まあ、甲斐駒のような山は、ゆっくり時間をかけて、味わいつつ登るのが、正統な登り方なのだろう。筆者はトレラン靴こそ履いていったものの、走ることはほぼなく、帰りには自然林や石碑の美(信仰登山の山なのである)を玩味しつつ降りたのであった。