ポピュラー過ぎて行けない場所というものがある。山で言うと、東京近郊であれば、高尾山や伊豆ヶ岳などであろうか。しかし、高尾山はすでにトレイルランのコースとしては超メジャーであり、奥高尾を陣馬山から生藤山方面へさらに進めば結構なコースとなる。伊豆ヶ岳に関しても、正丸から登って子の権現へ降りるポピュラーなコースではなく、武川岳と繋ぐようなコースとすれば(その武川岳も天狗尾根コースとするのである)かなりの難コースとなる。
そうやって工夫次第でどんな人気ある山といえども、静かな山歩きをすることはたいてい可能であるが、「中央線沿線で最もポピュラーな山」といわれる扇山に関してもそれは例外ではない。以前から、中央高速を走るバスに乗って、談合坂SAで降りれば直接アプローチすることが可能であることは知ってはいたが、今回ある偶然によってバリエーションルートからの登頂が出来た。
新宿駅西口バスターミナルを七時に出発する高速バスに乗れば、談合坂に八時過ぎに着くことができる。ただ、注意しなくてはならないことは、このバス停は、ふたつに分かれている談合坂SAの、下り車線に存在するということだ。このバス停の名前も「中央道野田尻」となっているように、上野原市野田尻のSAということになる。つまり最寄りの山は不老山であり、扇山までは少々歩く必要がある。
SAを出て歩きはじめてまもなく、地元のひとに声をかけられる。扇山への道を教えてくれたのだが、じっさいにゆくとそれは不老山への道だった。県道30号線を西へ歩いてゆくと、一台のクルマが後ろから近づいてきた。何と先ほどの地元のかたが、娘さんの運転のもとわざわざ来られたのである。扇山への道をあらためて教えてくださろうというのである。
ご好意にはかえって恐縮してしまったが、せっかくなので、棚頭の先の入(いり)地区まで乗せて頂くことにした。ここから東側の尾根に登るバリエーションコースがあるのを知っていたからである。かくして、扇山への初登頂はバリエーションルートからとなった。
北側の尾根に取りつけばいいのはわかっていたので、何か奥に入り過ぎたかなあと思ううちに、扇沢沿いに進む踏み跡を見つける。この踏み跡の先にきっと尾根への道が分岐しているだろうと勝手に決めて進む。ところが沢沿いの道は途中で途絶していた。仕方がないので北側の急斜面(もちろん道はない)を強引によじ登る。突破した尾根は高度720mくらいで、東側から道が延びてきていた。踏み跡とは言えない、立派な道である。
かくしてこの道を西に向かって歩く。最初は植林の中の平凡な道であるが、徐々に雑木を交えるようになる。地形図の通り進み、浅川峠からの道を合流してほどなく頂上である。珍しく富士山が綺麗に見える。
ここから百蔵山までは400m下がって300m登るという、結構なアルバイトがある。雑木も豊富で雰囲気の良い(そして意外に静かな)尾根を味わいながら歩くとよいだろう。百蔵山に着いたのは一時を回っており、太陽が南中するために南側の展望は損なわれる。しかし三ッ峠、御正体山、そしてもちろん富士は確認することができる。猿橋ニュータウンもである。
地形図上の、百蔵山の登山路(下山路)の位置は、まちがっている。下和田に降りる道ではなく、葛野へのルートを選んだが、途中の800mピークから、南側の尾根へ下りる道があり、これを選んだ。登りにはまったく適さない急降下であるが、途中で山の神にぶつかり、そこからは緩やかな下りとなる。もともと山の神までが本来の道であり、そこから上はあらたに急造した道という感じであった。
帰り、秘湯といわれる湯立人温泉へ立ち寄ろうとするが、前もって電話をしておかないと入れないということであった。ここは、リベンジせねばならない。しかし、ここが温泉とは誰も思うまいよ・・・