山登りをするひとのなかには対人恐怖症のひとがいる。そういうひとは、山中で人間に出会うことを極度に嫌がる。人間と離れていたいがために山へ来るからである。コースの選び方を間違えてしまうと、数十人もの人間に出くわしてしまう可能性がある。そういうお悩みをお持ちの貴兄にお送りするのがこのコースである。週末の道志山塊、特に日曜日は、道志へのバス便も途絶え、アプローチがむずかしくなるからである。
旧秋山村、現上野原市にある無生野は、前道志あるいは道志山稜への登山基地である。相模川の支流である秋山川沿いに東西に広がるこの美しい山村へ達するルートは、上野原からバスで秋山川を遡るか、逆に都留側から雛鶴峠を越えて東へ向かうのがふつうである。しかし、本当にその2ルートしかないのか? それがこんかいのテーマである。
上野原発無生野行きバスは、8時28分に上野原を出て、9時18分に無生野へ到着する。すると登りはじめの時間がかなり遅くなり、前道志はともかく、道志を歩くのには少々心もとない。おまけに秋山ではなく道志村、つまりこれも相模川の支流のひとつである道志川沿いの集落へ下山しようとすれば、帰りの足に難儀することになる。土日の日中はバスが走っていないからである。では、どうするか。「前道志の峠越えをする」が答えである。
東京発4:39の総武線始発に乗れば、高尾に5:57に到着し、6:01発の大月行きに乗り継げば、梁川の駅に6:26に到着することができる。曇りの天気予報では、この時間はまだなお暗い。桂川を渡る車道を道なりに進めば、「もうすぐ登山道あり」の標識が見える。このあたりでマイカーで来ていたハイカーに声をかけられる。その場所からまもなく右側に登山道の入口がある。
どんどん歩いてゆく。月見根沢沿いの道から立野峠越えをするだけだから手間取ってはいられない。しかし意外にこの道は時間がかかる。結局立野峠に着いたのは7:30。梁川駅から一時間かかっている。しかしここから秋山村へ降りるのは二十分で済む。しかし、立野峠から無生野へ降りる地形図の道は消滅しており、実際の道は浜沢へ降りるものしかない(分岐を見落とした可能性はある)。
浜沢から二十六夜山を経て赤鞍ヶ岳を目指して縦走するコースは以前歩いているために、こんかいは無生野から直登するコースをゆくことにする。浜沢から無生野までの旧秋山村の風景は歩いてみる価値があるものだ。かくして、無生野に8:15頃到着。一時間ほど稼ぐことが出来た。
無生野からはさらに二つ先のバス停である赤倉岳バス停まで歩き、ここから右側の車道へ入る。「二十六夜山登山口」と書かれた大きな看板がある。そこから舗装された車道を経て林道へ入るのだが、最初の沢の大きな分岐のところで左側へ誤って入ってしまう。ここ、右側を流れる沢がわかりにくいのだ。
左側の沢沿いにもずっと道がついている。かなり整備状況はわるいが、桟道があったりしてむかしの登山道であることはまちがいなさそうだ。点々とピンクのリボンがついているので道を見失うことはなかろう。しかしついに道が消滅してしまう(分岐を見落としたのかも)。仕方がないので、沢の左側の尾根にむりやり取りつく。またやってしまった・・・
結局、二十六夜山から赤鞍ヶ岳への縦走路に出るという最悪の結果になってしまった。こんなことなら浜沢から登っておけばよかった。仕方なく棚ノ入山へ急ぐ。10:00頃到着。やはり時間をロスしてしまっている。ここから約30分で赤鞍ヶ岳へ到着。ここまでで四時間歩いていることになる。ここからがこんかいの核心となる。
いちおう断っておくと、この「赤鞍ヶ岳」は、25,000分の1地形図にある「赤鞍ヶ岳」である。登山者に広く使われている昭文社エアリアマップでは「朝日山」となっているが、現地の表記も「赤鞍ヶ岳」となっている。また道志村観光協会のマップでも同様である。ここからワラビタタキ(雨量計のあるピーク)へ向かう。赤鞍ヶ岳山頂で大休止したので、おそらく30分強でワラビタタキへ着く。ここから厳道峠へ向かう道は踏み跡がぐっと薄くなるが、それも最初だけである。しかし恐らくここを歩くひとはかなり少なかろう。このような曇りの雨が降るかもしれない日に人に遭うことは恐らくないであろう。しかし心配は要らない。道志の村落が見える稜線に出れば、大声が麓まで届くからである。
暗い自然林を抜け、長尾へ至る。細茅ノ頭(1093mピーク)を経て、長尾。この間40分。さらに植林の中を歩くようになり、道が明瞭になって、鳥井立。15分。実はここから金美波峠まで歩いてみようとルートを物色してみたのだが、途中通れるかどうかわからず、断念。大人しく厳道峠へ降りる。ここまでで約6時間半。ここから車道伝いに阿夫利山方面へ行くのも面白くないし(それくらいなら金美波峠への強行突破をやっている)平野峠までの稜線をそのまま辿ることとした。このわるくないプロムナードを歩いてゆくと、50分ほどで平野峠。
前回は、ここでブユ?に追いかけられたため、よくみていなかったのだが、この峠は基本的には月夜野〜安寺沢方面を結ぶ峠なのであり、稜線をそのまま行くとすれば「菅井」方面へ行くことになる。地形図でいうと677m, 600mピークの方向となるが、地形図の道は道志川方面へ降りていってしまう。おそらくこれは地形図のまちがいであり、稜線を菅井方面までできるだけゆくこととした。案の定、尾根上にずっと道は続いており、587mピーク手前で林道と交差し(天神峠)、ここから先はなんと東海自然歩道となっていた。この道が地形図に書いてないのはさすがに怠慢ではないか。
しかしこの後小ミス。地形図で「天神隧道」と書いてある直上の分岐、ここには「綱子天神峠」のプレートと供養塔が建っているが、ここを左に取れば峰山を通って大久和(やまなみ温泉)に出ることができた。八時間以上の歩行でかなり疲労していたため菅井から車道を歩いたのもわるくなかったのだが、峰山直下の100mのアルバイトを歩ききる力はまだ残っていたのだから、こちらを選ぶべきだったろう。
とにかく休日、特に好天日でないときは、人に遭う心配はほとんどない、静かなコースがこの道志縦走であった。