はじめに断っておくが、この文章はあくまで「こんかいの東北関東大震災」に被災していない方向きの記事である。被災地のかたがたがこのblogをお読みになるとは思わないが、万が一そのような方がおられたら、この記事は無視して頂きたい。
震災救援・復興に向けて皆が一丸となっている今、ひとつだけ気になるニュースが。昨日のテレビで、原発に関して「医療チームも遠回りの新潟経由で現地入りしています」とのこと。この報道が本当でないことを祈りたいが、もし真実なら医療者として何たることだ。風評被害を増やすだけではないか。あれほど「現時点では健康に影響の出る放射線量ではありません」とあちこちで人々の不安を和らげる報道がされているのに・・・自分が医師団にいるなら断固東北道経由を主張する。移動はクルマを使うわけだしほぼ車体で放射線は遮へいされるとみてよい。徒歩で行動したとしても被曝量は微々たるものだろう。ちょっと情けない報道だった。
透析患者が「水がない」ということで苦しんでいる。この事態に関してはもちろん同情を惜しむものではない。ただ、日本における透析医療の現状について書いておくことは無益ではないと思う。従来透析導入となる疾患の一位は「腎炎」であった。この病気に関して、患者さん本人の帰責性、つまり健康管理が不十分であったことの寄与分はわずかであると考えられる。もちろん勝手に薬の服用を自己中断したりして病気を悪化させるというケースが皆無ではない。しかるに、現在の透析導入となる原因の第一位は糖尿病である。しかも1型・・・インスリンが出なくなり、発症直後からインスリン自己注射が必要になる・・・の糖尿病は日本では少なくて、生活習慣病たる2型糖尿病からの導入がほとんどである。これは何を意味するか。
透析導入となる糖尿病患者さんの中には、例えば家庭の主婦などで、検診を受ける機会がなく、相当腎症・・・糖尿病は腎臓を侵す・・・が進行するまで発見されなかった、という不幸な例もないわけではない。しかし、相当数が、「自分には糖尿病があり、進行すると腎臓が働かなくなり、人工透析に至る」という認識がありながら、自己管理をしてこなかったケースなのだ。そうして人工透析が一度導入されると、自動的に身障者1級扱いとなり、医療費は公費負担となる。つまり、透析患者さんの中には、ある一定数、モラルハザードに近い群が存在するのである。たとえを挙げると、「心筋梗塞と診断されているのにタバコをやめず、再発作を起こし、その再発作の治療に要した金額はすべて国家負担」というようなものだ。
もちろん、人間は「ある病気の9割にある合併症(たとえば心筋梗塞とか脳梗塞とか致命的なもの)が起こります」と言われても、自分は残りの1割に入ると思う性質を持っているし、喫煙者の中にはタバコの害を説かれても「でも喫煙者で長生きをする人間もたくさんいる」と反論する人間が跡を絶たない。「統計的にこうなっている」という説得は無意味なのである。あるいは医療従事者自身が患者さんに病気の害をうまく説明できていない、ということも考えられるし、本人が100%悪いとは筆者も思わない。病院や医療従事者の責任も相当ある。が、糖尿病の透析患者さんのかなりの部分は自己責任である、と言っても、それほど反対はされなかろうと思われる。
問題なのは、自由主義とは、通常「他人に迷惑をかけない限り何をしてもよい」と定義されることが多い(厳密な定義には異論がたくさんあるから今回はそこまで立ち入らない)ことである。よく議論になるのは「自殺する自由」などの自己の身体の処分権に関することであるが、同様に「太って糖尿病になる権利」や「喫煙する権利」なども許される、という議論がある。
このような災害が起きてわかることは、「病気である」ことはその分健康なひとびとに比べて多くの資源を消費する、ということだ。要は他人に迷惑をかけてしまう。断っておくが筆者は被災地にいる透析患者さんや病人の方を責める意図は毛頭ない。現時点で透析が導入されていること、病気であることにはなんらの罪もないと考えて頂きたい。そのようなかたがたには厚い手が差し伸べられねばならない。筆者が訴えたいのは現在被災していないひとびとにである。今や「健康を保つことに最大限の努力をする」ことは、国民の義務でもあると考える時代に来ているのかもしれない。つまり、「不健康でいる権利」はもはや保障されてはならないのではないか。
「太く短く」生きたいという糖尿病の患者さんは、暴飲暴食を続けて腎不全になっても、結局人工透析を拒否できない。その結果、身障者1級となり他の納税者に迷惑をかけることになる。喫煙者がタバコをやめず肺がんや心筋梗塞になっても、医療費は他の成人が払っている健康保険料からも支払われる。言うまでもないが病気にかかることには100%本人の責任ということはまずなく、健康に十分留意していても不幸にして罹ってしまう場合がほとんどのはずである。
しかし病気、特にいわゆる「成人病」「生活習慣病」の中には、自己管理で予防できるものが相当数ある。そして全病気に占めるこれらの割合は年々高まっている。災害時に他のひとびとの資源を奪ってしまわないためにも、ふだんから自己管理をすることはもはや国民ひとりひとりの義務である、と筆者は考える。繰り返しになるがもはや「不健康でいる権利」など認められない、と考えるべきである。
もちろん、いったん病気にかかってしまった以上は、それまでのいきさつがいかなるものであっても、手厚い医療が提供されなければならない。ただ、本音を言ってしまうと、医療従事者の中には、喫煙者や2型糖尿病の患者には、内心で冷ややかな目を向ける層が相当数ある(実は筆者もそうである)。「確信犯」の患者さんに、他の「罪もない」患者さんと同じ努力をむけるのは、ばかばかしく感ずるのは人情として自然ではないだろうか。それがいわゆる医の倫理に反するとしても。
今までのことは悔やんでも仕方がない、病気にかかった時点で、あるいは透析導入となった時点で、あるいは今この文章を読んだ時点で、各自ができる範囲内で健康に留意し、病気にかかっているかたがたはそれ以上悪化させない努力を行う、そうあって欲しいと思う。そして、すべての喫煙者には、禁煙を行っていただきたい。もはや喫煙者の医療費を捻出する余力は、この国には残っていないのだ。
>精神科医の23.1%が喫煙者
精神科医は医者じゃな・・・あ、失礼。内科医の偏見です ;)
喫煙はそのメカニズム上、一瞬安楽をもたらしますが、ニコチンの消失と共に新たなストレスの原因となり、結局頭の中を常にニコチンで満たしておかなければふつうの生活ができない、つまりニコチン依存症を招きます。つまり自縄自縛になるわけですが、それがわからない人間にはあまり医師の仕事をして欲しくない、と個人的には思います。患者教育上もよくありませんし。
それ以上に、もはや喫煙という「他人に迷惑をかける」道楽を支える余力はこの日本にはないのではないでしょうか。
>これだけ喫煙の害が喧伝されても喫煙者は再生産されています。
喫煙者が跡を絶たないのはニコチンという化学物質の魔力のためだけではありません。もっと根本的な対策が必要です。
有名な話ですが、ハリウッド映画から喫煙シーンは消えました。「禁煙はカッコいい」という社会的な「言説」をなくすため、という理由らしいですが、要は喫煙という行為に社会的なペナルティを課す必要があるわけです。現在は税金と公共の場所での制限のふたつですが(後者に関して。喫煙者は飲食店における喫煙行為が非喫煙者に対してどれだけの不快感を与えているか理解できない)、そういうペナルティではなく、「自己管理が出来ない人間」とみなし、責任ある立場に就く資格なし、との認識を社会が共有する、それしかないでしょう。
筆者がここまでタバコを断罪するのは、健康に対する被害の故ではありません。喫煙という行為が非喫煙者の財産権を害するからです。保守思想的な言い方をすれば国益を損なうからです。
>砂糖と油はニコチン並に依存性があるのでしょう。
油は依存性というよりも味をよくするためだろうと思います。油脂を多くすると大抵の食事はおいしく感じられます。炭水化物に関しては摂取でドーパミンが分泌されることが証明されていたように思います。どちらにしてもカロリー摂取に対して報酬があるのは人類が生きてゆくためのメカニズムなのでしょう。
コメント (3)
微量の放射線より喫煙のほうが健康に悪いと誰かがつぶやいていてぞっとしました。
ろどんぐさんは喫煙する医師をどう思われますか。
精神科医の23.1%が喫煙者らしいのですが
http://ogujibi.blog110.fc2.com/blog-entry-325.html
やはりストレスのたまる科は喫煙したくなるのでしょうか。
さっそくフォローさせていただきました。つぶやき楽しみにしています。
投稿者: ぼのぼの | 2011年03月18日 20:18
日時: 2011年03月18日 20:18
私は今大学生で、一時期大学が全面禁煙になったのですが、隠れて吸う学生があとを絶たなかったので、暫定的に喫煙所が設けられました。これだけ喫煙の害が喧伝されても喫煙者は再生産されています。もっと税金を上げればいいのだと思いますが、財務省やら葉タバコ農家保護やらでどうにもなりません。
父が肥満でダイエットをしなければならないので、肉をもう食べないと言って魚や煮物など健康そうな食事をしていたのですが、スナック菓子や甘いものがやめられないようです。砂糖と油はニコチン並に依存性があるのでしょう。しかし、砂糖と油に税金をかけるわけにはいかないので、タバコ以上に厄介かもしれません。
私も数日前震災や原発のニュースを見ていると恐ろしくなり軽い下痢になりましたが、意識的にニュースを見ないようにして落ち着きました。震災に無関心でいられる人は気丈に振舞っているか変わり者かのどちらかですね。
投稿者: ぼのぼの | 2011年03月18日 21:50
日時: 2011年03月18日 21:50
たしかに喫煙者は企業に採用されないとか出世できないとかになれば喫煙する学生は減りそうです。
いままでどれだけ英語が必要だと言われても英語ができる日本人は増えませんでしたが、最近社内の公用語を英語にする企業が増えていよいよ英語を真剣に学ぶ学生が増えそうな気がします。たばこもそのような方向に持っていけたらいいですが、まずは会社の上層部がやめられるかですね。
油をとるとエンドルフィンがでるらしいです。
http://www.snfoods.co.jp/kenbunroku/060418_01.html
いわれてみればたしかに、中華を食べた後などはぼーっとしていい気持ちになります。
砂糖がアッパー系、油がダウナー系というところでしょうか。
投稿者: ぼのぼの | 2011年03月18日 23:39
日時: 2011年03月18日 23:39